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猫の注射部位肉腫

概要

猫の注射部位肉腫(Injection site sarcoma ; ISS)は、注射部位に発生する非上皮性悪性腫瘍(肉腫)の臨床診断名です。組織学的には、ほとんどが線維肉腫ですが、骨肉腫、未分化肉腫、粘液肉腫、横紋筋肉腫、リンパ腫などが含まれます。発生部位は、頸部背側、肩甲骨間、腰部、臀部、大腿部外側などに発生します。ISSの多くは中年齢以降(平均8歳)に発生し、皮下組織に比較的大きな腫瘤を形成します。局所浸潤性が極めて高く、局所再発率が高いのが特徴です。ある報告では、ISS切除後6ヶ月以内に86%の症例で再発が確認されています。また、遠隔転移率は10-25%で、肺への転移が最も多く、所属リンパ節、皮膚、縦隔、肝臓、骨盤などへの転移も報告されています。

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診断

一般的には、皮下に触れる硬固な腫瘤として気づきます(写真1.a-c)。最初に、針吸引生検(細胞診)を行うことが多いですが、ISSは壊死組織や嚢胞形成することが多く、肉芽腫との鑑別が困難なことがあります。そのため、細胞診でISSが疑わしい場合には、原則として組織生検による病理組織検査で診断をします。注射後にその部位に炎症反応が認められた場合、6〜8週間以内に炎症が治まることが多く、腫瘤は自然に消滅しますが、表−1に示すような状態であれば、生検を実施することを推奨しています。
 ISSは、ステージングとして、局所浸潤性の程度やリンパ節および遠隔転移の有無、全身状態の把握が必要です。全身状態の把握には、血液検査、尿検査などと実施し、遠隔転移の有無は胸部レントゲン検査や腹部超音波検査を実施します。ISSは、いかに初回手術で十分な外科マージンを確保するかが重要であるため、原発巣の局所浸潤性を把握するためにCT検査(写真2)やMRI検査が重要な検査のひとつです。

写真1.

a.胸背部に10×10×7.5cmの腫瘤が存在する。

b.毛刈り後の姿

c.毛刈り後の姿

表−1.ワクチン関連肉腫対策委員会が推奨するワクチンなどの注射部位に発生する腫瘤に対する組織生検実施のガイドライン

  • ワクチン接種部位の腫瘤が3ヶ月以上存在するとき。
  • 腫瘤の大きさが直径2cm以上になったとき。
  • ワクチン接種後1ヶ月以上経過しても腫瘤が大きくなり続けるとき。
  • 写真2.CT画像。腫瘍が棘突起を超えて浸潤しているのがわかる。

    図1:組織球腫の外貌
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治療

猫のISSでは、外科手術を中心とした集学的治療が必要です。外科治療のキーポイントは初回手術での十分なサージカルマージンの確保です。再発例では、腫瘍の悪性度および浸潤性が増すことが知られており、初回でいかに十分なマージンを設けて切除するかで再発率や転移率が変化します。但し、発生部位や極めて局所浸潤性が高いと言う特徴からISSの場合、根治的なサージカルマージン(側方5cm+深部筋膜2枚含む)の確保が困難な場合が少なくありません。そのような場合には、放射線療法や化学療法をうまく組み合わせて治療します。
 放射線治療には、切除不能な病変に対する緩和照射と外科切除と組み合わせての照射(術前照射と術後照射)があります。緩和照射では、効果は一時的です。外科治療と放射線治療を併用した場合、再発率が抑えられると報告されています。また、術前照射と術後照射のどちらでも治療成績に明確な差異はないと言われており、症例の状態や施設によって方針が決定されます。  
 化学療法には、効果が十分に証明されたものはありません。肉眼病変に対して使用した場合、ドキソルビシンの奏効率は39%であり、奏効期間中央値が84日と、治療効果は長続きしません。

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予後

猫のISSの局所再発の予後因子としてサージカルマージン、腫瘍の発生部位が報告されており、遠隔転移の予後因子として組織学的グレードが報告されています。
初回手術で根治的なサージカルマージンの確保ができ、組織学的グレード1のISSは十分な予後が期待できます。

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