診療案内・科目

不整脈

犬や猫の心臓は本来一定のリズムで拍動を繰り返しますが、不整脈をもつ犬や猫ではそのリズムが不規則になり、拍動が異常に遅く(徐脈)あるいは早く(頻脈)なります。

不整脈によって適切な血行動態が損なわれることで、脳や末梢組織への血流不足や心臓における血流のうっ滞が生じ、元気や食欲の低下、失神、ふらつき、呼吸困難等の症状が引き起こされます。また、突然死の原因となるため適切な診断と治療が必要です。

こうした不整脈の診断には心電図検査が必要となります。当院では、院内での心電図検査に加えて、軽量小型の装置を身につけて在宅下で長時間心電図を記録するホルター心電図検査を実施しており、病院内では発生しない様な一時的な不整脈も検出することが可能です。

不整脈には治療の必要が無い場合、内科治療でコントロールできる場合、または内科治療のみでは治療が困難でペースメーカの植込みが必要な場合があります。単純に心臓の問題だけでなく、原因となる基礎疾患を有することも少なくありません。
日常の生活の中で何か気になる点がございましたらお気軽にご相談ください。

洞不全症候群 (Sick Sinus Syndrome)

どんな病気?

心調律を決定する最も上流のペースメーカーである洞結節の刺激生成能の低下や、そこからの刺激伝導障害が生じることによる徐脈性の不整脈です。
正常な血行動態を保てない場合は失神・ふらつきといった症状が現れます。洞不全症候群は以下の3つのタイプ(Rubenstein分類)に分類されます。

Ⅰ群 持続性の洞徐脈
Ⅱ群 洞ブロックまたは洞停止
Ⅲ群 高度の徐脈に上室頻脈性不整脈が併発するもの(徐脈頻脈症候群)

好発犬種

ミニチュア・シュナウザー / ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア / ミニチュア・ダックスフンド

治療

失神のコントロールにはペースメーカの植込みが必要となります。
抗コリン作動薬や交感神経作動薬が一時的に効果を示すことが有りますが、時間の経過とともに効果がなくなることも多く、高度の洞不全症候群の場合、徐脈と頻脈が複雑に絡み合う病態となるため内服薬による心調律のコントロールは困難な可能性があります。

洞不全症候群が認められた犬の心電図。数秒の洞停止とその後に続く補充収縮が認められる。

ページの先頭へ

房室ブロック

どんな病気?

心房と心室の間における伝導の遅延や遮断が原因で生じる不整脈です。
以下のように、第Ⅰ度から第Ⅲ度に分類されます。

第Ⅰ度房室ブロック
房室間の伝導が遅延している状態で、PR間隔の延長が認められます。迷走神経の過緊張、薬物の影響などが原因であることが多いです。
第Ⅱ度房室ブロック
房室間の伝導が断続的に遮断している状態です。
PR間隔が進行性に延長し、心室の興奮(QRS群)が途絶するウェンケバッハ型、PR間隔の変化なしに突然QRS群が途絶するモービッツⅡ型、心房の興奮(P波)とQRS群が2:1かそれ以上のブロックを高度房室ブロックといい、ふらつきや失神などの症状が認められるのであれば、ペースメーカの植込みが必要となる場合があります。
第Ⅲ度房室ブロック(完全房室ブロック)
房室間の伝導が完全に遮断している状態です。
原因は薬物の影響、心室中隔欠損症、僧帽弁異形成などの先天性心疾患、電解質異常、肥大型心筋症、心筋炎などが挙げられますが、原因となる異常が無く、症状が認められるのであればペースメーカの植込みが必要になります。
しかし、猫では犬に比べて無症状で経過する場合も多くあります。

第1度房室ブロック

第2度房室ブロック(モービッツⅡ型)

高度房室ブロック

第3度房室ブロック(完全房室ブロック)

治療

房室ブロックを引き起こす基礎疾患(迷走神経過緊張、薬剤の投与、高カリウム血症、心臓の器質的な異常等)がある際はその治療を行います。

高度もしくは進行性の第Ⅱ度房室ブロックや第Ⅲ度房室ブロックの場合は心拍出量の低下に伴いふらつきや失神といった症状を引き起こす可能性があり、突然死のリスクが有ります。
これらの疾患は内科治療への反応が乏しく、ペースメーカの植込みが必要となります。

ページの先頭へ

上室期外収縮・上室頻拍

どんな病気?

上室期外収縮は、心房あるいは心房と心室の接合部において生じた異常な刺激によって心臓が拍動する不整脈です。3回以上連続して発生すると上室頻拍と呼ばれます。上室期外収縮は心機能が正常な犬や猫でも認められますが、慢性僧帽弁疾患、心筋症、先天性心疾患といった心臓病やその他の代謝性、全身性、炎症性疾患を基礎疾患に持つことが多いです。

上室期外収縮は特に臨床症状は引き起こしませんが、基礎疾患の発見が重要です。

上室頻拍は、痛みや興奮などで認められる洞頻脈との区別が困難なことがあります。心拍数が早過ぎることにより正常な血行動態が損なわれ、失神、ふらつき、衰弱、低血圧といった症状が現れる可能性があり、それらの症状があれば迅速な治療が必要であり、突然死のリスクも有るため注意が必要です。

治療

不整脈を誘発する基礎疾患によるうっ血性心不全が存在する場合にはまずそちらの治療を行います。

上室期外収縮が頻発する場合や、上室頻拍が生じる場合はカルシウムチャネル拮抗薬やβ遮断薬などの内科治療が適応となる場合があります。

前述した上室頻拍による臨床症状が認められる場合は薬物治療とともに、軽度の眼球圧迫や頸動脈洞圧迫などの迷走神経を刺激する処置などを行うこともあります。

術前検査にて偶発的に見つかった犬の発作性上室頻拍(心拍数:300回/分)

ページの先頭へ

心室期外収縮・心室頻拍

どんな病気?

心室期外収縮は、心室筋から発生する異常な刺激によって心臓が本来のリズムとは別に収縮する不整脈です。

正常な犬猫では稀ですが、外科手術後、胃拡張捻転症候群、低酸素、貧血、敗血症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、膵炎などの炎症性疾患、胸部外傷、麻酔薬などの薬物の影響、心不全、先天性、慢性僧帽弁疾患や心筋症などの後天性、感染性心内膜炎、心筋炎、心筋梗塞、心臓腫瘍を有する犬猫でも認められます。

心室期外収縮が3回以上連続することで心室頻拍と呼ばれます。これらの不整脈は以下のLownらによって提唱されたグレード分類で評価されます。

グレード 診断基準
0 心室期外収縮なし
1 1時間に30回未満
2 1時間に30回以上
3 多形性の心室期外収縮
4A 2つの連続する心室期外収縮
4B 3つあるいはそれ以上の連続する期外収縮(心室頻拍)
5 R on T (早いレート)

心室期外収縮・心室頻拍が認められた犬猫においては心臓を含めた全身的な評価が必要となります。心疾患を有さない場合は一般的に良好で、不整脈による突然死の危険性はほとんどありません。

心疾患を有する場合の多くは症状が出るほど血行動態に変化を与えませんが、一部の症例では突然死を引き起こすため注意が必要です。
特に、拡張型心筋症のドーベルマン・ピンシャーならびにボクサー、重度な大動脈狭窄症の患者、遺伝性心室頻拍を呈するジャーマン・シェパード、肥大型心筋症の猫では注意が必要です。

治療

これらの不整脈は、前述したように様々な基礎疾患から発生するため、心電図検査に加え、血液検査、画像診断検査など様々な検査が必要となります。

全てが治療対象となる訳ではなく、不整脈による臨床徴候が認められる場合、血行動態に異常を来している場合、不整脈源性右室心筋症、ドーベルマンの拡張型心筋症、ジャーマン・シェパードの遺伝性心室頻脈性不整脈など1日あたりの心室期外収縮の数が多い場合が主な治療対象となります。

慢性弁膜症の犬の治療経過中に認められた心室期外収縮

腹腔内に激しい炎症を起こした犬に認められた心室頻拍

ページの先頭へ

心房細動・心房粗動

どんな病気?

心房細動とは、不規則で高頻度の興奮が心房内に多数生じ、それが房室結節へ伝導するためRR間隔も不規則となる不整脈です。
心房細動が認められる基礎疾患には主に拡張型心筋症や房室弁疾患がありますが、大型犬の場合、重篤な基礎心疾患が無くとも、この不整脈を呈することがあります(孤立性心房細動)。
猫における発生はまれですが、この不整脈が認められた場合、多くで心筋症などの心筋疾患からの重度の心房拡大を伴っています。

心房粗動は、300〜500回/分の速くて規則的な心房の動きが認められます。その形態は典型的なものでは規則的で、P波はのこぎりの歯のような波(F波)に置き換わっています。非典型的なものではF波は認められず、この不整脈と心房性の頻脈を区別することが難しくなります。

好発犬種

大型犬(グレート・デーン、アイリッシュ・ウルフハウンドなど)

治療

基礎疾患が有るかどうかで治療法が異なります。
重篤な基礎心疾患がある場合はその治療が主体となります。
左心房の拡大を呈する場合の心房細動の治療目的は、心室の収縮頻度をコントロールすることです。

基礎疾患が無いか軽度な場合、または急性に心房細動に至った場合は、洞調律に復帰する治療が考慮されます。薬物投与あるいは電気的除細動による方法が用いられます。

慢性弁膜症の犬の治療経過中に認められた心房細動

先天性心疾患の犬に認められた心房粗動

ページの先頭へ

心室細動

どんな病気?

心室細動は心停止の原因のひとつです。両心室の収縮は弱く協調性が無く、実質的に心拍出量はゼロです。
心電図は全く不規則、無秩序でさまざまな電位と幅と形をした変形波形が認められます。心室細動は致命的な状態であり、心室細動の犬は脳への血流不足が原因で10秒以内に意識不明になります。

関連する疾患としては、ショック、低酸素症、心筋の損傷(外傷、心筋梗塞)、電解質または酸-塩基平衡の異常(低カリウム血症、低カルシウム血症、アルカローシス)、大動脈弁狭窄症、薬物、心臓外科手術などが挙げられます。

治療

薬物療法単体は心室細動に対して効果的ではありません。除細動器を使用した電気的除細動が治療法となります。

発症より早期に治療を実施しなければ生命に関わる状態となるため、直ちに胸部圧迫等を含む蘇生処置が必要になります。
蘇生処置中に実施する除細動への反応が乏しく、心室細動が3分以上続く場合や、電解質の不均衡や全身性の疾患から心室細動が二次的に発生した場合、予後は非常に悪くなります。

ページの先頭へ

循環器科担当 高智 正輝


ページの先頭へ戻る